福井県の製薬会社「小林化工」が製造した爪水虫の薬に睡眠導入剤の成分が混入して、この薬を服用した70代の患者が死亡しました。他にも意識消失や記憶喪失などの健康被害が128件報告されているようです。具体的には、服用直後に意識朦朧として救急搬送されたり、眠気や物が二重に見え自動車運転中に意識朦朧として中央分離帯に接触したりとか、ろれつが回らないなどの症状で救急搬送されて入院したなどです。
薬品名は “イトラコナゾール錠50”で皮膚真菌や爪白癬、カンジタ症などで処方されます。免疫が低下していたり、一般では水虫が爪の下まで入り込んだ時に使います。通常の真菌症であれば、1日1回に100~200㎎、爪カンジタの場合は1日1回50~100㎎の処方がされますが、70代ということは真菌症で100㎎を処方されていた可能性があります。
謝って継ぎ足された原料は睡眠導入剤の成分“リルマザホン塩酸塩水和物”、一般的に知られている名前は“リスミー”という短時間作用の睡眠薬です。1錠あたりの混入量は5㎎ということですから、通常は1~2㎎を寝る前に服用しますのでイトラコナゾールを100㎎飲んだなら10㎎で通常の5~10倍の睡眠薬を飲んでしまったことになります。これでは良い睡眠どころか呼吸が止まって脳に酸素がいかなくなり心臓が止まったということでしょう。何故こういう事が起きてしまうのでしょう。
「小林化工」側では製造過程において、薬品を間違えないように入れてある容器の形が全く違っていて、必ず2人のスタッフで確認するとのことです。しかし、よくよく調べてみると、“スタッフが1人の時間があってその時に起きたかもしれない“という証言もあります。新型コロナの問題があって、本人や家族の発熱で新型コロナの疑いがあるスタッフは休ませないといけないとか、人件費削減でとか、実際には常時一人しかいなかったかもしれません。それもベテランのスタッフではなくトレーニングされていない人が単なる数合わせとして現場に送り出されていた可能性もあります。
これは、私がアルバイト先でサポートについてくれる看護士さんにもよくあることなのですが、結婚出産でしばらく現場を離れていて久々の仕事だとか、定年退職して復帰とか、中には実は看護士の免許を持っていないとかで、派遣会社から単発で出勤したのでどうしたらよいか全く分からないという状況で仕事をこなすことがあります。現場というものはその日になってみないと分からないということがよくあります。自分のクリニックであれば、慣れたスタッフが仕事をこなしてくれますので安心ですが、外に出てみると、本当によく管理されていてお手本にしたいところから、本当に大丈夫なのかなと思うところまで様々です。
更に「小林化工」の記事をさらって読んでいくと、国の承認書に記載のない工程で作っていたことが判明したそうです。原料を軽量や混合する工程で現行の基準に合っていなかったということです。まあ、出てきましたね。次から次に、他の薬を間違って混ぜただけではなく製造方法まで違っていたとは、根本的に見直さないといけない感じですね。「小林化工」は1946年戦後翌年に創立したジェネリック医薬品の研究開発、製造販売をしている会社ですが、2020年1月からオリックスと資本業務提携したということですから、うがった見方をすれば、資本提携をした時点で何かあったのではないでしょうか。担当者が変わったとか、薬剤を管理する方法や場所の変更がなされたとか、何かしらの変化や変更があったため引継ぎがうまくいかず起きてしまったことかもしれません。
他の薬剤が混入するなどあってはならないことですし、普通は起きないはずのことですが、推理していくと根本的なことは“人が間違えた”ということなのですから、どこにでも起きる可能性があることなのです。世の中には星の数ほど薬がありますし、これから新型コロナの治療や予防で使用する薬も出てきましたから、間違いのないように処方がなされるよう日々ダブルチェックをして注意するべきですね。この地味な行いがなかなかできないのです。でも大切なのです。