先程、今年のノーベル医学・生理学賞が発表されました。日本人の受賞が期待されていましたが、C型肝炎ウィルスの発見で、アメリカとイギリスの研究者3人に決まりました。今年は新型コロナウィルスが猛威を振るって世界的ダメージを受けましたから、ウィルスに特化したのかもしれません。
アメリカのノーベル賞の受賞者を輩出しているNIH研究室に私の父は国費留学しておりました。父の留学時は
「6階のワトソンが取ったぞ!」
なんて日常の会話の一つとして話されていたそうです。私はノーベル賞の候補を決める時はどうするのかといつも不思議に思っていました。学生の頃、父とNIH研究所に遊びに行く機会がありまして、その時に幸運にもNIH研究所長スチュアート氏が海軍基地内のレストランにランチの招待をして下さいました。タイミングをみて自身の疑問を恐る恐る尋ねてみました。スチュアート氏は御年90歳を過ぎてなお健康そのものでパイプをふかしながらウィスキーをショットで飲んで、
「健康の秘訣は暴飲暴食、好きな事をすることだ。」
と言ってウィンクをする茶目っ気のある人で、
「ああ、ノーベル賞の候補ね。今のようにこうして皆でランチを食べながら、
『今年面白い事をしたやつはいるかい?』と聞くんだよ。そうしてあれやこれやの話が出てきて、『そいつがいい!今年はそいつで行こう!』って感じで決まるんだ。」
「えっ?そんな簡単に決めるんですか?」
「そう。感覚で。」
「書かれた論文を皆で検証するのではないんですか?」
スチュアート氏は笑いながら、
「みんな論文に書かれている以上の事を知っているから今更読まなくてもね。家族のように互いを良く知っているからね。あいつは飲んだくれだから推薦すると後で問題を起こすかもしれないから辞めておこうとかね。」
素晴らしい研究は多くの人がしているけれども、ノーベル賞にふさわしい人格を選ぶとおっしゃっていました。最後に、
「研究がしたかったら我々の仲間になればいい。君は世の中の為に一生懸命に尽くす人だから。」
と言われました。父は感動していましたが、私はその言葉がどの位凄い事なのか理解出来ていませんでした。一番印象的だったのは、スチュアート氏は無宗教だと。つまり神を信じない、科学と自分を信じると。非常に珍しい、宗教、人種を超えて学問を共にする人を愛した方でした。それは幼い頃に母親が病気で亡くなったからだそうです。いくら神に祈っても母は助からなかったという辛い経験からでした。
ああ、コロナが沈静化して海外に行けるようになったら、お墓にお参りに行かねばと思いました。