ノーベル医学生理学賞を受賞した本庶佑(ほんじょうたすく)京都大学特別教授が6月5日に小野薬品工業を相手取り分配金約226億円の支払いを求める民事訴訟を起こす方針を明らかにしました。“小野薬品がメルク社から受け取る額の40%の支払いを受ける約束があるので小野薬品が既に支払った1%分を除く39%分(約226億円)を請求する”という内容です。
小野薬品でのオプジーボの売上高はロイヤルティー収入を含めて約1682億円という事ですので、オプジーボの開発の元となった物質「PD-1」を発表した本庶教授としては納得のいかない金額でしょう。公的な決まりは無いようですが、用途特許ならば通常は5~10％が常識のようです。学者や医師は通常ビジネスでの常識からは疎い世界にいます。今回、本庶教授は京大に特許の出願要請をしていたそうですが、知的財産を扱う専門人材やノウハウや資金も充分でなかったため大学とではなく小野薬品と共同出願した経緯があるそうです。そのためビジネスに長けた薬品会社に美味しいところを持っていかれた感じがします。勿論、小野薬品側も今迄携わったことがない癌治療薬に数百億円の開発費を投じているのですから大きなリスクを背負っていました。これから互いにどこで着地点を見つけるかが注目したいところです。
因みに、ノーベル生理医学賞を受けた大村智氏は米製薬会社から200置く円余りの特許料が支払われているそうです。今出ている様々な記事を読むと、本庶教授はお金が欲しいというよりも、後進の若い科学者が当然といえる報酬を得て更に良い環境で研究を続けられるようになればという思いのようです。
さて、従来日本の研究者のほとんどはお金とは縁がなく清貧と言っても良いほどのつましい生活の中で日々素晴らしい開発を進めています。酷い場合は生活費が足りず、アルバイトをしながら生計を立てて研究費も充分でない過酷な状況の中、あと一歩というところで断念せざる得ないということもよくあります。こういうことが繰り返されれば折角の才能や開発研究が埋もれてしまいますし、特に現在の若者は跡を引き継いでいこうとはしないでしょう。土地などの資源が少ない日本では得意分野である頭脳を活かすべきですが、折角の情報も奪われては元も子もないですので、そこら辺の対策もしっかりするべきだと思います。そういう意味で、今回の民事訴訟を起こす方針を明らかにした意思表明は研究をビジネスとしても考えていくべきという一石を投じたと思います。
さて、様々な記事を拾って観れば見るほど、本庶教授は従来の研究者よりも規格外ということが連ねてあります。AERAなんて“俳優と見紛うばかり”とべた褒めしています。面倒見がよくて門下生に慕われ、玄人はだしの腕前で知られる趣味のゴルフ、、、ソフトボール大会は4番ピッチャーで出場、、、ボーリング大会を開催、、など。過去に週刊プレイボーイに取材された記事があって“イケメン”と評されています。どれどれと「本庶佑」「若い頃」で検索すると成程次々に写真が出てきます。(現代って凄いですね)
最も大切な今回の発見も通常の発想とは違うところから生まれたようです。従来の癌治療は手術で切りとるか放射線でダメージを与えて抗がん剤で追い詰めるという方法でしたが、この方法では正常な細胞までやられてしまうのです。そこで、免疫細胞に目を付けたようです。普段免疫細胞は癌細胞を見つけると攻撃するのですが、癌が大きくなると攻撃をやめてしまうのです。PD-1が免疫細胞を働かなくしているので、それをとってしまおうという発想から来たのがオプジーボなのです。免疫細胞を働きやすくして生体防御機能を大きくして癌に勝とうとしたということです。以前免疫療法は亜流扱いをされていましたが、その流れが変わる可能性が秘められているようです。
今年世界を変えた新型コロナウィルスも様々な薬が論議されていますが、ウィルスの変異も次々に起きていますので、この免疫療法、本当に主流になるかもしれません。注目！！
