5月半ばから蕁麻疹などの皮膚の炎症で来院される方が増えました。季節の変わり目で不純な天候に加えて紫外線と同時に夏の花粉症も始まっていますので、身体を防御する皮膚にとっては過酷な条件が増えています。気温も上がったり下がったりではありますが、湿度と並行して上昇気味です。たまに夏日もあって汗をじっとりかいてしまいます。患者さんは汗をかくので痒くなると訴えることが多いのですが、実はほとんどの場合汗がかゆみの原因ではありません。いつも汗が悪者のように扱われていますが、体温を調整したりする重要な役目を担っています。さらに汗にはシステインプロテアーゼ阻害作用というアレルギーの原因となる抗原の影響を軽くする効果がありますが、時間が経つとともにその作用が失われますので発汗早期限定でのみ良い働きをします。長時間放置されると、汗孔が塞がれ汗疹が出来て炎症やかゆみの原因となってしまいますので、古い汗はおしぼりでふき取るとか流水で洗浄するか、出来ればシャワーを浴びて洗い流してから汗のついた衣類は着替えることをお勧めします。
さて、汗とはいったい何でしょうか?即答できる方いますか?
汗はエクリン汗腺から作られる透明な体液で弱酸性です。乳酸や尿素など種々の電解質が含まれていて、ストレスや肉体労働などで成分の濃度が変化します。身体のなかでは手のひらや足の裏が最も汗をかきやすい部位で、発汗のピークは12歳ごろとされています。
この機能は生後2歳半で発達が完了します。つまりそれまでの環境に発達が左右されて、暖かい地域に生まれれば発汗の機能が多いとされています。しかし、人種差では私たちアジアに住む人種の方が熱帯地域に住む人よりも多く汗をかくようです。
近年、この汗の成分調節にかかわるメカニズムが明らかにされつつありますが、先月なんとこの汗を利用して電力を供給できる仕組みを開発したと発表がありました。
アメリカのカリフォルニア工科大学のメディカルエンジニアリングを専門とする研究チームが「電子皮膚」を開発したと発表しました。電子皮膚は心拍数や体温、血糖などの様々な情報が得られるのですが、今回の開発で注目されているのは、“汗で発電する”という機能を搭載したことです。今迄の電子皮膚でも情報は得られたのですが、多くの電力を必要として近距離でしかデータを送信できませんでした。研究チームはそこに目を付けて、汗に含まれる乳酸を酸化させる酵素を使ってより多くの電気へと変換する仕組みを開発したのです。これによってデータをより広範囲に伝達することが可能となりました。
10数年前まで皮膚で得られる情報は、額に母親が手を当てて熱が無いかとチェックしたり、デートで接近してドギマギして頬が赤くなると緊張しているのが相手に伝わったりという程度でしたが、今や数字レベルで皮膚からデータを受けることが出来るようになってきました。
近い将来、医療機関などと連動することを考えているようなので、遠隔診療でのモニターとして使用できるかもしれませんね。今回のコロナのように外出して診察を受けるとかが難しいようなときにも、電子皮膚からのデータをBluetoothで飛ばしてより正確な診察診断が出来るようになるかもしれません。個人では、相手に上手く気持ちが伝えられない時にドキドキ指数としてデータをラインで送ると、「えっ、そんなに想ってくれていたんだ。」と分かってもらえるチャンスが訪れるかもしれません。様々な可能性を秘めた開発に拍手です。