アメリカのトランプ大統領が新型コロナウィルスの治療薬として抗マラリア薬を服用していると公言した後、5月22日にイギリスの医学誌「ランセット」が新型コロナウィルスの患者への投与はかえって死亡リスクを高めるという論文を掲載しました。この調査は9万6000人余りの患者を対象に行われたそうです。アメリカのFADも深刻な副作用の恐れがあると警告を出しているのですが、トランプ大統領は予防のためとして服用しており、治療薬としても推奨しているそうです。
このトランプ大統領の発言には困りましたね。このヒドロキシクロロキンまたはクロロキンという薬は海外では抗マラリア薬や関節リウマチ薬として使用されていますが、日本では膠原病の主に皮膚エリテマトーデスや全身エリテマトーデスの治療に対して適応されています。服用して症状をすぐにドンと治すというよりも免疫を調整するという薬です。以前他のブログにも記載しましたが、日本で認可されている抗リウマチ薬のアクテムラもそうですが、服用するタイミングが非常に難しいのです。何故なら、主に免疫を抑えていく薬を初めから服用していて免疫が下がってしまえば逆に身体は弱ってしまうのです。サイトカインストームという本来は身体を守る機能が暴走したときに身体が攻撃されないようにと抑える目的で使用するのであれば意味はありますが、専門の医師でさえもこのタイミングを判断するのが非常に難しいところです。でありますから、この強い薬を闇雲に飲み続けているのはリスクが大き過ぎます。特に欧米人よりも身体が小さく薬の効果が単純に2倍位に効いてしまう日本人には勧めません。はい、飲んでいる人は止めましょう。
5月20日にも、薬の話題では抗新型インフルエンザ薬「アビガン」の承認についてマスコミが「科学的根拠が確認できていない」と相次いで報道しましたが、これも素人考えで、「専門家が慎重な態度を見せているから薬の効果がない」と早合点してのことでした。実際は、“効果は認められるが、致命的な欠点があり認可を躊躇していた”というのが事実です。
欠点というのは催奇性という副作用です。日本は1960年前後にサリドマイドという薬によって多くの人が、手がアザラシのように短くなるというような事が起きて被害に遭いました。他に記憶に新しいのは薬害エイズ事件や抗がん剤のイレッサの副作用です。このような歴史を繰り返さないためにも慎重にならざる得ないのです。認可するということは国が責任を持って保証するという事ですから、生死に係わるから直ぐに「はい認めましょう。」とはいかないのです。
「じゃあ、芸能人の石田純一はアビガンを処方されて助かったじゃないか。あれは親しい医者やなんかのコネで優先されたからじゃないの?我々庶民はアビガンを処方してもらえずに死ぬだけなんですか?」という質問がきたりしますが、
「いいえ、違います。自分で服用したいと希望すればアビガンを飲む権利は誰にでもあります。」と言えます。
これは、アビガンというまだ認可されていない薬は、現場の医師の裁量や責任において処方するかどうかを決定して患者に薬の説明をして、患者はその薬の効果やリスクを理解して自己責任の上で服用するという手順を踏むのです。
現在、医療費削減も言われていますので、こういう自由診療の割合が増えていくでしょう。特に今回のような緊急で命がかかっているような場合は選択の余地なく自分で判断を迫られるようになるでしょう。急に出来ることではありませんから日頃からやはり自分に関係あると思われる病気は努めて勉強しておく方が良いと思います。医学も日々進歩していきますので、その時の自身の判断が正しいのかは結果を見なければ分からないかもしれませんが、少なくとも他人に命を任せっぱなしにはならないと思います。