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小説「柿の木」8章

夜、祖母が蚊取り線香をたき、蚊帳をつる。
部屋の四隅の鴨居の上に釘が打ち付けてあり、そこにつり紐をトンと跳び上がって、ひょいっと慣れた手つきで引っ掛けるのだ。使い込まれたその蚊帳はいくつか蚊取り線香で燃えて穴があいていて、あちこちに端切れが貧乏臭く縫い付けてあった。美夏は蚊帳の中に入るのは好きだったが、いつもそこの隙間から蚊が入ってきてウウーンという羽音で眠気を邪魔されるのが不快だった。
(おばあちゃん、本当にお裁縫が得意だったんかな?)
などと思いながら、蛍光灯の小さい豆電球だけがついているのを見つめていた。

扇風機の風で時折蚊帳がふわっと波打って持ち上がる。

風鈴のチリンという音。

うしがえると虫のなき声。

遠くで野犬の遠吠え。

最終列車の音。

もうすぐ大勢のあの世の人々が帰ってくる。

美夏はやがて自分もいつかその列車に乗って旅に出るのかと、思いながら深い眠りに引き込まれていった。

 

 

それから数十年が経ち、玄関の松の木はさらに立派な枝ぶりとなり、柿の木は、枯れてしまった。
勿論、家族のだれもその木にぶら下がることはなかった。
一人、また一人と平和にベットの上で見送られた。
おそらく、今頃、この世では見ることが出来ない空間の中を静かに走り続ける例の汽車に乗っているのだろう。
もしかしたら、あの柿の木も一緒に乗っているのかもしれない。
美夏は窓の向こうにそびえ立つ六本木ヒルズの高層ビルの窓が光を反射しているのを見つめた。
まるであの日の祖父の瞳のようだった。
あと何十年かたつと自身も必ずあのビルよりはるかに高い空間へ向かうのだ。
その日まであらゆることを飲み込んでいかねばならない。
そう自分に言いきかせながらビードロを机の上に置き
今日も患者を待っている。

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