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小説「柿の木」4章-1

祖父は器用にトーストの角をミルクに浸してから食べて、くるっと回して次の角を浸して食べるとまた次の角を器に浸した。
「そうか、夏休みの課題が戦争体験か。」
トーストを瞬く間に1枚平らげていく軽快な調子とは対照的に言葉を発する口元は鉛のように重くよどんでいた。

旧制高校で学び医師となった祖父は、郷里とは全く縁の無い大阪の赴任を当時の教授から勧められて、数日後には一家で移り住んでいたという決断の早い人間だった。
毎晩芸者をあげて・・・というのは少し大袈裟ではあるが、背が高く鼻筋が通った端正な顔立ちはどこに行っても目立ち、たいそうもてたらしい。
美夏の母である恵美の次に妹の寿美が生まれ、平和な時を過ごしていたのだけれども、次第に戦争の陰がしのび寄り軍医としてかりだされた。
長い長い音信不通の時を経て、ある日祖父の死亡通知が家族のもとに届けられた。
しかし、数週間後に何故か生きて帰ってきて皆を驚かせ、そのまま郷里にもどり診療所を開業して、二度とその場から外に出ようとはしなかった。
ゆるゆると月日は35年経ってゆき、その間、祖父は戦地での体験は一切口にしなかった。
誰に訊ねられても頑なに話すことを拒んできたため、その部分は大きな空白で謎だった。

ひっそりと時は刻まれてゆき、祖父は診察室で毎日ラジオを聴きながら座って患者を待っていた。
樫の木で出来た椅子はときおり祖父の鼻歌に合わせて軋む音がした。
村人が腹をくだしたのだの、鎌で指を切ったのだの、ありとあらゆる村の人の訴えに耳をかたむけ、夜中でも嫌な顔一つせずに黒い皮のかばんに注射器と薬を携えて往診していた。
美夏も幼稚園の頃、割れた牛乳瓶のかけらを踏んで足の裏に刺さり、ワーワー泣きながらピンセットでとってもらった思い出がある。
「大丈夫じゃ。血は出とらん。」
と言われると、痛くない気がしてピタリと泣き止んだ。実際にはけっこうな傷で、赤チンキを塗って包帯を1週間ほど巻いていた。

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