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小説「柿の木」2章

 「恵美、ちょっとここに来んせい。」
戦況が激しくなる中、父が赤紙で軍医として召集されたのを期に郷里へ疎開してきたのは1年と少し前。それから半年後、南へと父が赴いたと風の便りで聞いだけで、姉とおばの女ばかりでただ家を守るしかなかった。
普段はきつい口調でものを言わない母が、乳飲み子である妹の由美を抱えたままで目を真っ赤にして彼女を突如呼びつけた。
恵美はてっきり学校のことで何か怒られるのだと思った。この前の試験では学級で1番だったし、宿題もちゃんとしている。体育のかけっこは苦手だが、ずる休みはしたことがない。思い当たるふしが無いのだが、しいていえば音楽だ。だが、音痴は天性のものだから仕方ないのだと、頭を垂れたままで母の膝を見つめ自分にいいきかせた。

 しかし、落ち着いてみると正座した母の前には、紅い鼻緒が切れた小さな草履が置いてあった。
(ありゃー。これじゃ。)
恵美は歩き方が良くないのか扁平足のせいか、しょっちゅう鼻緒を切ってしまっていた。その度に母が田んぼむかいに知恵遅れの息子と二人暮らしのおばばに着物の余りきれでゆわってもらい、10銭渡していた。回数が重なれば結構な金額になる。この前から、母は少しまけて欲しいと直接交渉に行っていたのだが、頑として首を縦にふらなかった。おばばは銭に対しては少しがめつく、いやしっかりしていて、小金が貯まるとなぜか、稲もイ草も育たぬ百姓の誰もがそっぽをむく塩田を少しづつ買っていた。水田の畦道をとおり家に戻ると母は
「どうせ、二束三文にしかならん田んぼをこうて銭をどぶに捨てるだけじゃ。」
とつぶやいた後に、恵美のほうに向き直して
「今度やったら、恵美は裸足で学校へ行かせるからのお。」
と、つい2日前に宣告したばかりのことだった。

 (それにしても、今日はごっつう、きょーてい【怖い】顔じゃな。)
子供心に思った。
「恵美、一緒に死のう。」
母はぽそりと言った。
そんなにまで怒る事かなと思いながらも恵美はここは謝らねばおさまるまいと、
「これからは、もっと気をつけ・・・・」
その場を繕うために言ってみたが、それをぴしゃりと遮り
「お父さんが南で・・・なあ・・・のおなったんじゃ。今、村の人から知らせがあってな。何度も鼻緒が切れるのはそのせいじゃったんじゃなぁ。」
母は再びぽそりと言った。と同時に妹はまるで言葉を理解したかのごとく火がついたように泣きはじめた。 

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