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小説「柿の木」6章

太陽がすでに頂点まで上がっていた。
祖母が診察室にやってきた。
「土曜で患者さんはこんじゃろ。そんな狭い所におらんと、縁側でスイカでも食べたらええじゃろう。麦茶も冷えとるし、美夏はカルピスかサイダーのほうがええかな?」
薄暗い診察室は他の部屋よりもこころもちひんやりしているのでそんなに時間がたったのには気づかなかった。
今まで祖父の声しか聞こえなかった耳に、けたたましい蝉の鳴き声が次々と飛び込んできた。
「恵美ももうすぐ帰ってくると思うから、お昼はのり巻きでも作ろうかと思うとんじゃけえど。」
と祖母が立て続けにしゃべる。着物を仕立て直した藍のワンピースに白い前掛けをして、祖父が見立ててくれたという鼈甲に珊瑚のビーズがあしらわれた櫛を整えられた銀色の髪にさしている。
お盆の用意をしていたのか、ほのかにお線香と樟脳の混じった香が漂っていた。
恵美、つまり美夏の母は車でろうそくや菓子など祖母に頼まれたものの買い出しに行っていた。

「もう、こんな時間か。気づかなんだなあ。」
と祖父が例の回転イスで後ろを振り返ると、柿の木より立派じゃなかろうかと思える大きな柱時計が12時を告げようとしていた。
祖父が立ち上がろうと机に手をついてゆっくりと立ったはずみで、尻尾にピンクの羽をつけた首の長いガラス製の水鳥が揺れた。

そうして、黒光りする板の間をスリッパでペタリペタリと2、3歩踏みだそうとした時、ふと思い出したように振り返って、
「ところで、あの塩田のおばばはなぁ、買うとった田んぼの一部が国道の建設地にひっかかってな、役場が買い上げて大金持ちになったんじゃ。恵美のわらじが化けたもんじゃな。」
と言って、ぴかぴかに磨き上げた頭を左手の手のひらでぴしゃりとたたき、ウインクをしてみせた。

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